新しい生活様式で換気について考えよう

「新しい生活様式」で考える
「換気のあり方」【基礎知識】

2020.07.06

世界中で新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、人々の命と健康を脅かしています。

家づくりにおける2つの「換気と通気」

2020年は世界にとって、そして人々にとって忘れられない1年になるでしょう。

世界中で新型コロナのパンデミックが起こり、人々の命と健康を脅かしています。
2020年5月下旬に緊急事態宣言は解除され、人々の人の流れは徐々に戻りつつあります。
これからは、コロナと共存する「新しい生活様式」が求められ、「三密」を避けることが新しい常態(ニューノーマル)となります。

しかし、暮らしや活動を行う中で、まだまだ「密閉」・「密集」・「密接」の3密を避けることが出来ない場面が多く存在します。
そこで3密を避ける手段として「換気」が改めて見直されることとなりました。

新型コロナウイルスの感染防止では、「換気」は非常に重要な手段とされています。

オフィスやお店で窓やドアを開放し、換気をよくしているシーンによく出会うことでしょう。
住宅建築業界では、2000年頃から住宅における換気の重要性が求められ、多くの技術者や研究者だけでなく、日頃の施工を担う施工者も適切な換気や通気が行える家づくりに注力してきました。

まず覚えていただきたいことは、「換気と通気」といいましても、家づくりにおいては「換気と通気」は2種類あるということです。

それは「人の健康に影響を及ぼす換気と通気」「家の健康に影響を及ぼす換気と通気」です。
これらは一部を除いて多くは別々の事象であり、対策も異なります。


新型コロナウイルスの感染防止で重要視される「換気」は前者の「人の健康に影響を及ぼす換気」です。

これは文字の通り、換気や通気を怠ると、住む人・そこにいる人の健康に影響を及ぼします。

「家の健康に影響を及ぼす換気と通気」、これを怠ると家自体の寿命が短くなります。
そして、まわりまわって人への健康に影響を及ぼすことになります。


今回はこの2つのうち、「人の健康を守る為の換気と通気」について説明します。

住宅の高気密高断熱化で、実は換気は昔以上に必要になっている

家づくりを行う際に住宅会社から1度は耳にする言葉、それが「高気密高断熱」ではないでしょうか。
夏涼しく、冬温かい快適な暮らしを行うために生まれた「高気密高断熱の家」。

現代の家の性能は、進化しています。暖房や冷房により得られた快適な空気温度を外に逃がさないようにするために様々な断熱技術が開発されました。
そしてせっかく暖房や冷房で得られた快適な温度を断熱材で閉じ込めようとしても、隙間があればそこから空気が入ったり出たりして失われてしまう・・・そうならないために気密という技術も同時に進化しました。


その結果、現在高性能を誇る住宅会社の多くは、床面積1㎡当たりの隙間量の基準が1㎠/㎡を切る建物がほぼ常識化しつつあります。これが皆さんも耳にしたことがあるであろう「C値」です。
この場合、「C値が1」などと言われます。

新しい生活様式 換気 :隙間相当面積を表すC値について

このC値が何を意味するのかというと、例えば通常の3LDK程度の40坪の家ならば家全体の隙間を集めても10cm×13.2cmというハガキより少し小さめの面積の隙間しかないという事です。
このぐらいの隙間になると、玄関ドアの開閉に力がいるレベルとなり、住宅技術者にとっては非常に高い性能と感じるレベルと思っていいでしょう。
何度も言いますが、家づくりにおいて「換気と通気」は重要です。それは高気密高断熱住宅においても同様です。


住宅会社が、これだけしのぎを削って高めた「高気密高断熱の性能」なのに、換気をしてしまうと「せっかくの冷房や暖房の空気を外に出すことになり、性能を低下させる」と感じるかもしれません。
しかし、「高気密高断熱」ということは殆ど隙間からの空気の流入や流出が行われることが無く、内部の空気がそのまま充満し続けるということになります。このことが人の健康に影響を及ぼします。

家の換気を怠ると、人へ直接影響を及ぼす

家の中に空気が充満し続ける=健康に影響を及ぼす・・・なぜそうなるのでしょうか。


まず、私たち人間は呼吸をしています。空気から酸素を取り込み、二酸化炭素を排出しています。
また家の中では調理や暖房で、ものが燃えても酸素が消費されて二酸化炭素が排出されます。室内で暮らしているだけで室内の酸素が減少し、
二酸化炭素がどんどん増加していくということになります。高気密高断熱住宅で、空気が逃げるすき間は相当小さく、換気を怠ると空気は室内にたまり充満していきます。

二酸化炭素は0.1%(1000ppm)を超えると倦怠感、頭痛、耳鳴り、息苦しさ等の症 状を訴えるものが多くなり、濃度が4-5%に達すると 呼吸中枢を刺激して、呼吸の深さ、回数増につながります。
8%の状態で10分間呼吸すると強度の呼吸困難、顔面紅潮・ 頭痛を起こすとされています。20%を超える状態だと数秒で死にいたってしまいます。


さらに酸素が不足した状態で火を使った場合に猛毒の一酸化炭素も発生します。
一酸化炭素は色も臭いも無いにも拘らず毒性が強い気体で、ほんの少しでも吸い込んでしまうと中毒になる危険があります。
一酸化炭素中毒の最初の症状は気づきにくく、次第に頭痛や吐き気がして、次に手足がしびれて動けなくなり、重症になると意識不明になり死に至ります。

このような空気が充満することで人の健康に及ぼす影響は計り知れないのです。

換気を怠ることの問題は、汚い空気の充満だけではありません。
人間は体から湿度も放出しています。また、日々の暮らしの中でも水蒸気は多く発生します。
調理中の湯気や、お風呂など想像していただくとわかりやすいかもしれません。

新しい生活様式 換気 :調理中に出る水蒸気
新しい生活様式 換気 :浴室でも湯気などの水蒸気で湿気が上がる

これらの湿気が室内に籠ることで、様々な場所で結露が起こりカビの発生原因となります。
さらにカビの胞子だけでなく、雑菌の繁殖も盛んになり、どんどん室内の空気の汚染が進みます。
埃やチリも充満し人が動くたびに浮遊し、空気を汚します。また近年の建材には様々な接着剤や溶剤が使われており、その中に含まれる揮発性物質が放散する事で暮らす人の健康に害を及ぼしています。


人は1日に14400ℓもの空気を摂取します。家の換気を怠り、汚い空気が充満するというこことは、
その汚い空気を摂取し続けるということです。これらが家に住む人の健康に直接影響を及ぼすことは想像に難くありません。


「高気密高断熱」で家の断熱性を上げ、空気の流通を防ぐことで快適な温熱環境を維持することも大事ですし、同時に家には適切な換気も必要です。

「高気密高断熱」をアクセルとすると、「適切な換気」はブレーキになります。
このアクセルとブレーキを同時に踏むような微妙な操作が現代の住宅には必要ということです。

常時換気と局所換気

現在の住宅性能においては1時間当たり0.5回の換気が必要であると法律で定められています。
高い断熱性能を備え、高い気密性能を備えると共に、1時間当たり部屋の空気の半分が適切に入れ替わる計画的な換気を行うことが、家づくりの基本です。


室内空間の換気については大きく2つの方法があります。「常時換気」「局所換気」です。

●常時換気

法律において、「1時間当たり0.5回の換気」を換気は定められているため、24時間365日新鮮な空気を室内に取り入れ、汚い空気を追い出す換気を「常時換気」といいます。
常時換気の対象は、居間や個室はもちろんのこと、トイレや洗面所や廊下も対象です。
クロゼットや物入れは除外とする場合もありますし、部屋と一体とする場合もあるグレーなゾーンです。
換気量は使用する建材によって異なりますが1時間当たり0.5回。つまり2時間で部屋の中の空気が全て入れ替わる量を換気する必要があるということが法律で定められています。


ですので、対象箇所の全ての「気積」つまり空間量を出し、その空間量に対し必要な換気量(多くは0.5回)が可能な換気扇を適所に取り付けなければいけません。そしてさらに大切なことは、この換気扇を24時間常に作動していることを実現させなければなりません。つまり住んでいるみなさんが電気代節減のために安易に切ることがないようにしなければならないということです。

新しい生活様式 換気 :常時換気は切らないで!

●局所換気

局所換気とは、常時換気だけでは排出できない特殊な事情を持つ箇所で、特に換気を行わなければいけない事態の時に換気する換気のことです。
換気箇所の代表的な例を挙げますと、

・調理を行う時に使用するのレンジ上の換気扇

・入浴時や入浴後に水蒸気や湿気を排出するための浴室換気扇

・トイレ使用後に臭気を抜くためのトイレ換気扇

となります。換気が必要な時だけ目的に応じた風量で換気をするイメージが湧きますでしょうか?

家の換気設備設計は、常時換気を基本に、適切な場所に局所換気をつけることが一般的です。
次回は、人の健康にまつわる換気や通気に関する法律についてご説明します。

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