長持ち住まいを実現するために知っておきたい基礎知識シリーズ

換気と通気について学ぼう!~長持ち住まいを実現する~【基礎知識】

2020.10.26

「家の健康」でも重要な通気と換気について説明します。

この記事は約7分で読めます

家づくりにおいての「換気」と「通気」は「家の健康」と「人の健康」を守る2つ側面があります。
「せっかく建てた新築の戸建て、問題なく長く住み続けたい」というのは家づくりを検討・そして現在住んでいるみなさんにとって誰しもが願うことでしょう。そのために「家が健康でいること」は重要です。
今回は「家の健康」でも「人の健康」でも重要な換気についてです。

家づくりにおける2つの「換気と通気」

みなさんも「高気密高断熱」という言葉は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
住宅建築業界では、2000年頃から住宅における換気の重要性が求められ、多くの技術者や研究者だけでなく日頃の施工を担う施工者も適切な換気や通気が行える家づくりに注力してきました。


まず覚えていただきたいことは、「換気と通気」といいましても、家づくりにおいては「換気と通気」は2種類あるということです。
それは「人の健康に影響を及ぼす換気と通気」「家の健康に影響を及ぼす換気と通気」です。
これらは一部を除いて多くは別々の事象であり、換気・通気の対策も異なります。


今、新型コロナウイルスが世界中で猛威を奮っています。新型コロナウイルスの感染を防ぐため、換気の重要性が再度言われるようになりました。この換気は前者の「人の健康に影響を及ぼす換気と通気」です。


「人の健康に影響を及ぼす換気と通気」については当サイトの別のカテゴリで説明しています。


今回は「家の健康に影響を及ぼす換気と通気」について説明いたします。

家の健康に影響を及ぼす換気と通気の重要性

住宅、特に木造住宅は様々な部材や素材を重ね合わせながら暮らしに必要な機能や性能を作り出しています。
壁厚の中や床厚の中や屋根の中はその代表的な箇所です。
また基礎の内部や小屋と呼ばれる屋根を形作る三角形の空間には一定量の空間が存在し、それらの空間が、それらの空間が、厳しい外部環境と快適な居住スペースとの緩衝役となっています。

家 換気 通気 : 家で換気と通気が必要な箇所

これらの箇所は、換気や通気がされていることが前提で必要な機能を作り出しています。
換気や通気が阻害されることで機能を満足させられないだけでなく、様々な不具合を発生させる可能性が発生します。通気や換気阻害を起こすようなことはしてはならない箇所なのです。


ちなみにみなさんは家づくりにおける「換気」と「通気」という言葉の使い分けをご存知ですか?


●換気・・・小屋裏や基礎内の大きな空間の空気を入れ替える


●通気・・・屋根や壁や床の厚さに空気の流れを作り出す


基礎の内部や小屋空間は、伝統建築など古来の住宅技術において換気が重要とされてきた箇所です。
伝統的建築では壁は塗壁が主流であり、素材そのものが通気性を持ち健全性を保っていました。


基礎の内部や小屋空間での換気の重要性は技術が発達した現代の住宅においてもその重要度に変わりありません。
現代の家では様々な素材を重ね合わせる事で必要性能を作り出しています。それぞれの素材が健全性を保つために、重ね合わさった層の間で通気が必要です。

換気と通気が必要な箇所~基礎編~

それでは住宅の中で通気や換気が必要な箇所を順に説明していきます。

まず基礎の立ち上がり内です。家が建つ地面は非常に大量の湿気が蓄えられています。
基礎のコンクリートからも多くの湿気が発生し床下空間に溜まります。
それらは空気中に漂うだけでなく吸放湿性をもつ木材、つまり土台や柱に吸い込まれ、より高湿な状況を作り出します。


基礎の立ち上がり内の湿度が高くなると、その環境を好む生物が数多く繁殖し、それらの生物がそれら木材を自然に返そうとして分解を始めてしまいます。その代表的なものが「腐朽菌(ふきゅうきん)」です。
腐朽菌は温度・酸素・水分・栄養分がそろうと繁殖します。基礎の立ち上がり内の湿度が高まると、腐朽菌が繁殖する好条件となるのです。


またシロアリも家を自然に戻そうとする生物の一つです。シロアリは普段、地中や倒木の中に住んでおり、湿った木材や段ボールが大好物です。湿気がこもった柱や床板など、多くの木材が使われている住宅は、いわばシロアリの食物の宝庫で、餌をもとめ侵入し食べ始めてしまいます。一旦シロアリが食べ始めると柱などがボロボロになるまで蟻害が進んでしまいます。


家 通気 換気 :通気と換気を怠ってシロアリ被害(蟻害)発生


これはシロアリ被害(蟻害)の様子です。こうならないためにも、基礎立ち上がり内の換気は必要です。

●基礎の立ち上がりの換気の意義

先ほども説明しましたが、腐朽菌は温度・酸素・水分・栄養分がそろうと繁殖します。
これを防ぐためには上記4つを揃えない事が大切です。


しかし、酸素と温度を制御することは、床下では難しいでしょう。養分を絶つという意味で防腐剤の処理は有効な手段の1つです。
重要なのは木材を乾燥した状態に保つことです。乾燥した状態を作り出すこと、つまり換気を良くして湿気を排出することが腐朽菌を繁殖させない最善の手段となります。


家 換気 通気 :腐朽菌を発生させないメカニズム


シロアリについても元来非常に弱い生物で、乾燥した場所や風通しの良い場所や日当たりのよい場所では生息できません。一部、空から飛んできて乾燥した木材を好むカンザイシロアリなどもいますが、換気により乾燥し常に風が吹くような環境を作り出す事でシロアリの生息を防ぐ事が出来ます。

換気と通気が必要な箇所~壁の厚さの中編~

みなさんが家の中で生活を行う事で、大量の二酸化炭素や湿気を発生させます。
それらは室内の空気を汚していきます。この汚れた空気は部屋にこもった後、行き場を求めて壁の中や天井裏に吸収されていきます。
壁の中に溜まった湿気は建物を構成する木材にも吸収され、腐朽菌を育む絶好の環境を作り出していきます。


また、外壁は日頃から風雨にさらされています。雨水の侵入を起こさせない様に頑張っていますが、雨量が増えたり経年劣化などでどうしても阻止出来なくて侵入を許してしてしまうことも起こりえるのです。
もし雨水が壁の中に浸入すると、壁内に留まり木材や断熱材を濡らし湿らせてしまいます。そして高湿な環境を作り出すことで腐朽菌の発生を促してしまいます。
壁の厚さの中も換気や通気で湿気をたまらないようにする必要があるのです。

●壁の厚さの中の換気の意義

壁の中においても基礎の中同様に高湿な環境は腐敗菌の増殖を許します。壁の中に入った生活で生まれた湿度や外部から侵入した雨水を壁内から早急に排出しなければなりません。


近年、外壁材として広く普及したサイディングは壁の中の湿気を放出する性能が低い為に、壁の中に入った湿気を壁の中でこもらせてしまいがちです。サイディング表面からの放湿は期待できません。
その為、サイディングの裏側の外部に一番近い箇所に通気を行う為の空間を作り出さなければなりません。それが壁通気層です。


家 換気 通気:壁通気層


胴縁という棒材でサイディングのすぐ裏に18mm程度の通気層を設けます。外部から侵入した雨水はこの通気層で水垂れとなり下方向に落下し、水切りにより排出されます。
また、生活で生まれ壁内に侵入した湿気は、外部からの水は通さないが内部からの湿気は排出する「透湿防水シート」により通気層側に排出され通気層を通り外部に放散されます。これらにより壁内の木材は乾燥状態が保たれ健全な性能を発揮し続ける事が出来ます。

換気と通気が必要な箇所~屋根編~

最後に小屋裏です。屋根を形作る三角形の空間を建築用語では「小屋」と呼びます。小屋の中の空間を小屋裏空間と呼びます。小屋裏空間は下階の快適な暮らしを作る場として機能を持っています。
生活で生まれた湿気は上方に移動して壁の厚さの中だけでなく、小屋裏の中に籠ります。また、太陽による熱や冬の寒さは直接屋根面に影響を及ぼし、その影響は小屋裏に蓄積されます。


その為に小屋裏は、夏は酷暑で高湿度、冬は極寒の厳しい環境となります。
また、屋根面は常に厳しい気候に晒されていて雨水の侵入等を許してしまうことも起こりえます。
小屋裏空間がこれら厳しい環境を一気に受け止めてくれており、そこを適切に換気することが家の健康にもつながるのです。

●屋根部分の換気の意義

屋根は断熱方法によって、通気を行うのか、換気を行うのか方法が異なります。

<屋根断熱を行った場合>


屋根断熱とは斜めの面となっている屋根の厚さの中に断熱材を入れる断熱方法です。この場合、屋根の厚さの上が外気温となり、厚さの下が内気温となります。屋根の形となる三角形の小屋裏空間は自ずと内気空間となり、室内扱いとなります。


家 換気 通気 :屋根断熱を行った場合


この場合、屋根の厚さ内に籠る湿気の排出や雨水の侵入による水分を排出する「屋根通気」が必要となります。
室内扱いとなる小屋裏空間は特に通気や換気の必要は有りません。
勾配天井にした場合は室内の常時換気の対象となります。常時換気についてはこちらの記事でご紹介しています。

フラット天井にした場合、小屋裏は誰も入らないデッドスペースとなりますが常時換気の対象でも、下の天井断熱を行った場合の小屋裏換気の対象でもなくなります。ここの換気の必要性や換気のしかたは設計者の考え方に委ねられます。

<天井断熱を行った場合>


天井断熱とは最上階の天井面の上に断熱材を敷く方式で、天井から上が外気温となり、天井から下が内気温となります。


家 換気 通気 :天井断熱を行った場合


小屋裏という大きな3角形の空間は外気温であり、室外扱いとなります。小屋裏は直接日射や冷気を浴びる過酷な空間となります。
小屋裏には生活で生まれた湿度が溜まり、また屋根面で防ぎきれなかった雨水の侵入による湿気も溜まります。
さらに、屋根面自体は表裏共外気扱いとなりますが、小屋に籠った湿度や急激な温度差により結露などが発生しやすい環境にあります。その為に小屋裏全体を換気する必要があります。

最後に 換気と断熱は切り離せません

家の健康から換気を考えますと「断熱」は切っても切り離せない関係にあります。この家づくりガイドでは断熱にまつわる記事を、「基礎知識」「法律・決まり」「方法」という観点から公開しています。こちらもぜひご参考ください。




●基礎知識:断熱性能と断熱の役割

●法律・決まり:省エネ性能・断熱に関する決まり
●方法・手段:断熱性能を高めるためには

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