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2021年4月から「省エネ性能の説明義務制度」が始まります

2020.12.07

2021年4月から始まる『省エネ性能の説明義務化制度』について説明いたします。

はじめに ~2021年4月より省エネ性能の説明義務化が始まります~

みなさん、『省エネ性能の説明義務化』で聞いたことはありますでしょうか?
これから家づくりを行おうとしている皆さんにとって、関係のあるお話しです。


2021年4月から300㎡未満の住宅の新築・増築・改築に際して、建築士から省エネ性能についての説明が義務化されます。
これにより、新築住宅を建てられるほとんどの施主が「省エネ性能への適否」について説明を受けることになります。


既に300㎡を超える建築物では省エネの適合義務化は行われていますが、今までは300㎡未満の小規模な住宅では建築士は「向上させる努力義務」でとまっていました。
今回、改正法が施行されたため、2021年4月以降は省エネ基準に「向上させる努力義務」と共に、適合しているかどうかの「説明義務」が生じることになりました。


その結果、これから新築される方は計画中の家の省エネ性能について説明を受けることになりました。
既に300m2を超える建築物では省エネの適合義務化は行われていますが、300m2未満の小規模な住宅では建築士は「向上させる努力義務」でとまっていました。
今回、改正法が施行された事で(2021年4月以降)、省エネ基準に「向上させる努力義務」と共に、適合しているかどうかの「説明義務」が生じることになりました。
その結果、これから新築される方は計画中の家の省エネ性能について説明を受けることになりました。
ただ、いきなり「省エネ性能について説明を受ける」と言われても、



●どのような説明がなされるのか
●それに対してどう対応すれば良いのか
●他の人はどうしているのか

など、不安や疑問があるのではないでしょうか。


今回は2021年4月から始まる「省エネ性能の説明義務制度」について説明し、皆さんの不安や疑問を一緒に解決していきたいと思います。

省エネ性能説明義務化の背景 ~日本の省エネ性能は決して高くない~

省エネ性能説明義務化の詳しい説明に入る前に、「省エネ性能説明義務化」の背景を説明します。


省エネ性能説明義務化の背景には、「日本の住宅の省エネ性能の現状」と「地球温暖化対策」があります。


興味のない方は目次からスキップができます。

●日本の省エネ性能の現状

日本は豊かな国で、世界に誇る優れたサービスや技術に溢れています。
住まいも世界の最先端を行っていると皆さんはお考えではないでしょうか。実は日本の住宅の省エネ性能は決して高くないのです。


下のグラフをご覧ください。線が高いほど熱を損出する。つまり断熱性が低いというグラフです。

省エネ性能 説明義務化 省エネルギー基準国別比較

日本は赤とピンクのグラフです。他国に対し、グラフの値が高い=断熱性能が高くないことがわかります。
ピンクの方は赤よりも値が低く(=断熱寧能が高い)、「次世代基準」とありますが、これは現在の日本の住宅の「努力義務」のラインです。

出典 財団法人 建築環境・省エネルギー機構(IBEC)

「努力義務」とは「これから作る家はここを目指していきましょう」という、いわば目標のレベルです。他の国の多くが「義務」つまり「この性能で作らなければいけません」というのに比べると、性能が低い上に「努力義務」とはかなり遅れているということがわかります。


もう1つ省エネ性能が高くないことがわかるものがあります。
下のグラフは窓の性能の比較です。

省エネ性能 説明義務化 世界の窓 断熱性能基準

こちらのグラフは線が高いほど断熱性が良いというグラフです。中国やアメリカより性能が低いことがわかります。
このように日本の省エネ性能の現状は決して高いと言えないのです。

●地球温暖化対策

菅首相が所信表明演説で2050年までにCo2排出量を実質ゼロとする目標を宣言しました。

また、アメリカが抜けたことで有名になった「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP21パリ協定)」で既に日本は2030年までに2013年度比で温室効果ガスの排出を26%削減する目標を公約として掲げました。過去から各種産業界ではCO2排出削減の努力を行ってきましたが、パリ協定での公約を実現するにはさらに多くの努力が必要です。


下の図をご覧ください。
これは環境庁が発表している部門別のエネルギー起源、Co2排出量の推移です。

省エネ性能 説明義務化 部門別エネルギー起源CO2排出量

この表を見ると、家庭部門のCo2排出量は直近まで増加の一途をたどっていた事がわかります。
この家庭でのCo2排出量では、何が多くを占めているかというと約1/3が冷暖房と給湯が占めています。公約を実現する為にもこれら家庭部門での省エネ化が非常に重要になってきているのです。




これらの背景から住宅の省エネ基準は1980年から段階的に強化されてきました。実は2020年に300㎡以下の住宅においても「省エネ基準の義務化」が予定されていました。
しかし義務化は見送られました。なぜでしょうか?


理由は、まだ住宅業界の認識やコストを吸収する技術などが省エネ基準の適合義務化に達していないとの声が大きかったからです。
これを受けた国土交通省は省エネ基準への適合義務化を先送りせざるを得なくなりました。


義務化にしてしまうと、省エネ基準に技術が達していない多くの住宅会社が商売をできなくなるということです。
これだけ長い間、住宅の省エネ化の重要性が語られてきたのに、基準に達していない会社がそれだけ多いということは大変残念なことです。


正直言って今回の法律改正はお茶濁しの感は否めませんが、今後さらなる省エネ化の推進と意識付けの為に、今回は「説明義務化」という一歩手前の制度で新たにスタートさせることになりました。しかし住宅の省エネ化は国の大きな施策の一つで必ず実現させなければならない事項です。近いうちにいずれ機を見て義務化となる日は近いでしょう。

省エネ性能説明義務化になって、私たちは何の「説明」を受けるの?

次に省エネ性能説明義務化では、具体的にどのような説明を受けることになるのでしょうか?
まず、省エネ性能で算出する数値について説明をします。


省エネ性能はプロである建築家でも容易に計算できない非常に複雑なプログラムで性能を求めます。

そして求められる性能も1つだけではなく、

●主に冬の暖房の熱を外に逃がさない性能

●主に夏の日射を遮り室内の温度上昇を抑える性能

●それら断熱遮熱性能を基本として、省エネ機器を使う事で年間のエネルギー消費量がどのくらいか



の3つの性能からなります。単位も見慣れないものですし、数値も実感のないものです。
ただ建築地毎に基準数値が定められており、その数値をクリアしているかどうか「○か×か」の判定で結果を建築士から施主へ説明します。
なので結果はわかりやすいのです。



一般的に住宅は2つと同じものがありません。間取りが異なったり、窓の位置や大きさが違ったり、家の建つ方位が違ったり。
選ぶ設備機器の違いで同じ断熱材を使用していても、断熱性能の数値は大きく変わります。


一軒一軒計算してみないと、その家の性能を正しく知ることができないのです。その為に大変手間のかかる計算作業を行い、上記3つの性能の数値を算出し、目指す省エネ性能に対しどの程度達成しているかどうか「○か×か」を確認します。

●省エネ性能説明義務化制度 概要

省エネ性能説明義務化制度の概要は以下の図の通りです。

省エネ性能 説明義務化 制度の概要

説明が義務化される対象は、300㎡未満の住宅です。
説明を行う人はその建物を設計した建築士、説明をされるのは施主です。


説明される内容は大きく2つです。


❶省エネ基準への適否。建てる家が省エネ基準に適合しているかどうか。

❷もし設計した住宅が、省エネ基準を満たしていない場合、「不適合であること」と「どうすれば適合するか」という具体的な方法とそれにかかる費用



満たしていない場合はたとえば、断熱材を厚くするとかサッシを高性能な物に替えるとかが提案され、その為にいくら住宅価格が上がるかが示されます。
これらはすべて書面により説明され、その説明した書類は建築に関わる書類として設計事務所の方で保存図書として保存されます。

●省エネ性能説明義務化制度の注意する点

この省エネ性能説明義務化では1点注意があります。
もし施主である皆さんがこれらの説明を希望しないという意思を明確に示した場合、この説明は不要となります。


これは想像ですが住宅会社はその意思を残すために「不要である旨の意思表明書」の提出を求めてくる場合があります。
設計士としては義務ですので、顧客の意思でその義務を果たさなかったという証拠を残すためです。


先に書いたように、省エネ性能を算出するのは大変で、説明を受ける側にとっても一見、難解なものです。
しかし省エネ住宅を増やしていく事は社会的にも非常に重要なことでありますし、住む人にとっても快適な暮らしができるだけでなく、健康にも大きな影響を及ぼす重要な性能です。
私たちの生活や健康に大きく関わってくる事項です。


なので、出された資料は必ず目を通し、気づかないうちに「不要である旨の意思証明書にサインをしていた。」ということにならないようにしましょう。
必ず「省エネ適合基準」に満たしているかの説明を受けるか受けないかは、ご自身で判断しましょう。

省エネ基準を詳しく解説!

省エネ基準の評価となるのは2つの項目です。「外皮性能基準(断熱性能)」と「一次エネルギー消費量基準」の評価です。

●外皮性能基準(断熱性能)の評価とは?

「外皮性能」はさらに2種類の基準に分けられます。
1つ目の基準は「外皮平均熱貫流率」です。


住宅の外部に面した壁や屋根や窓や床(もしくは基礎)には熱貫流率という1時間の間にどれだけ熱が通過するかといった数値が有り、それらは素材や部位により全て数値が異なります。それを調べ使われている面積を乗じた後、全表面積でわります。その結果家全体としてどの位熱を逃がしにくい(入れにくい)かが求められます。得られた数値はUA値という単位で示され住宅全体の断熱性能を表します。

省エネ性能 説明義務化 UA値

外皮性能の2つ目の基準は日射対策性能を表す「冷房期の平均日射熱取得率」です。
住宅に日射がどの位入ってくるかを表した数値です。住宅全体の日射取得量を天井、壁、床、窓などの外皮の合計面積で割った値で、得られた数値はηA値という単位で示されます。
この数値が大きいほど、日射熱が侵入しやすい住宅となります。

省エネ性能 説明義務化 冷房期の平均日射熱取得率

上記2つの数値が下記にある地域ごとの基準値をクリアすれば1つ目の評価、「外皮性能基準(断熱性能)の基準適合」となります。

ちなみに地域については下記の表で確認いただけます。

冷房期の平均日射熱取得率 平成28年度省エネ基準

二つめは「一次エネルギー消費量基準」の評価です。
一次エネルギーとは、火力・水力・太陽光など、自然から得られるエネルギーのことを指します。そしてこの一次エネルギーを変換や加工をして、利用しやすい形にしたのが都市ガス・電気などで、二次エネルギーと呼ばれます。



使用する機器によってエネルギーの単位が異なるので一次エネルギーに変換することで同じ単位で計算できるようにします。一次エネルギー消費量の単位はJ(ジュール)でMJ(メガジュール)やGJ(ギガジュール)と言った単位が使われます。住宅で実際に消費する一次エネルギー量を計算する際は、一次エネルギー消費量は暖冷房・換気・給湯・照明・その他の5項目を合算して算出します。さらに外皮性能(UA値、ηA値)や各種設備に対応した評価値を合計します。色々ややこしい事を書きましたが一次エネルギー消費量の計算は、専用のWebアプリケーションが用意されており、このWebアプリにデータを入力し計算することで、一次エネルギー消費量が求められます。


そして評価は、実際に使われるエネルギー消費量が、省エネ基準で定められている数値を下回れば適合となります。

いろいろ難しい話しを行ってきたので多少うんざりされてきたと思いますが、多分、実際の説明でも

●「外皮平均熱貫流率がいくらです。」

●「冷房期の平均日射熱取得率はいくらです。」

●「一次エネルギー消費量基準」はいくらでした。」というという言葉が出ると思います。



その数値の詳しい意味を知らなくても、その後に続く、省エネ適合基準に「適合しています」「適合していません」のどちらかが一番重要です。


その結果、「省エネ基準に達しています」で有れば、「あっそうですか」という事で一件落着ということになりますが、「基準に達していません」ということになると、適合させるためにはという説明が続きます。さらにいろいろ難しい、理解しにくい世界に引きずり込まれ、何を判断基準にすればよいかわからない事態に陥ります。

省エネ適合基準に満たなかった場合はどうなるの?

今回の説明義務化では省エネ基準を満たしていない場合、不適合であることを施主様に説明した後に「どうすれば適合するか」を具体的な方法とそれにかかる費用を建築士から示されます。
これは、どの性能の数値が低いかで「何をどうするか」は変わってきます。一般的な例を挙げていきます。


●断熱性能が低ければ「断熱材の性能を上げる」か「窓の性能を上げる」


●冷房期の平均日射熱取得率は低ければ多くの場合「窓の性能を上げる」


●一次エネルギー消費量が多いようであれば「省エネ機器を導入する」



これらは多くの場合に費用の増加は否めません。一方、計算原理的には間取りや窓の配置、大きさを変えれば3つの基準の数値は変わります。
この場合は費用をかけずに数値を上げる事も可能な場合もあります(あくまで可能性です)。


実際の判定結果の数値により手段は異なりますが、大雑把に考えると約3つの方法があります。
それぞれメリットデメリットを書きたいと思います。


①断熱材や窓等を高性能なものにする。


メリット:いわば家の基礎体力を高める様なもの。冬温かく、夏冷房が良く効く快適な住まいが作れて、その効果は長く続きます。将来変更する事がほとんどできない個所なので新築時に高性能なものにしておく事を強くおすすめめします。
デメリット:3つの方法の中で一番費用がかかることになります。


②高性能設備に変更する。


メリット:イニシャルコストである機器代は上がるが、光熱費が一般的に安くつきランニングコストで有利。
デメリット:あくまで機器の性能で数値を上げただけなので快適さに変化はありません。また家の寿命は50年以上ですが機器の寿命は10年程度です。機器寿命がきて機器を変更すれば厳密にいえば性能は変わってしまいます。

③間取りや窓の大きさや取り付け場所を変える。


メリット:住宅会社の積算方法にもよりますが一般的にコストの上昇が抑えられる可能性が高い。
デメリット:希望する間取りや空間を省エネの為に変更することになり理想の暮らし方を壊してしまう。後悔してもリフォームには多大な費用が掛る。(なお当方法は省エネ計算方法によって変化が出る場合と出ない場合があります)多少金銭的余裕があれば、1つ目の方法がおすすめです。今でしかできない事。快適さに直結している事。がその主な理由です。

さいごに

色々書きましたが、最適な方法は計算結果を見なくては導き出す事は出来ません。施主の好みや予算等を一番よく知っている住宅会社の建築士や営業担当の方が計最適な方法を提案してくれると思います。
そんな時に、今回の記事で覚えた内容が役に立つのではないでしょうか。

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