断熱性能を向上させるには?断熱材と断熱工法について

断熱性能を高めるには【方法・手段】

2019.03.20

住まいの断熱性能を向上させようとすると、断熱工法も断熱材の種類もさまざまです。ここでは、それぞれの断熱工法や断熱材にどのような特徴があるのか、メリットやデメリットは何なのかを学んでいきましょう。

内断熱?外断熱? 断熱工法の種類とは

断熱性能を高める:断熱工法の種類

内断熱と外断熱という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。断熱材を構造躯体の内側に取り付けるのか、屋外側に取り付けるのか、断熱材を取り付ける場所で呼び分けます。
木造住宅や鉄骨住宅の分野では「内断熱」「外断熱」と言わず、構造躯体の中に入れる「充填断熱」、構造躯体の外側に貼る「外張り断熱」と呼ぶことが一般的です。

充填断熱とは

木造軸組住宅の最も基本的な構造は柱と梁です。その太さは一般的には105mmとか120mmで、その太さが壁の厚みとなります。柱や梁以外の部分はほとんどが空洞となっています。その空洞部分を利用し断熱材を「充填」し、断熱性をもたせているのが充填断熱です。

断熱性能を高める:壁の充填断熱

壁の充填断熱

壁内の空間を活用して断熱材を詰めるため、内外壁とも出っぱる事なく空間を有効に利用できます。

断熱性能を高める:床の充填断熱

床の充填断熱

床には土台や大引という床を支える部材が一定ピッチで通っており、その間の空間に断熱材を詰めます。

断熱性能を高める:屋根・壁の充填断熱

屋根・天井の充填断熱

室内空間上部の断熱は、屋根か天井のどちらか一方を選択することになります。
屋根断熱を行う場合は、屋根面を支える垂木という材の間に断熱材を詰めます。
天井断熱を行う場合は、構造体の厚さ内に充填するのではなく、居室の天井裏にまるで敷き布団を敷くように断熱材を敷く方法をとります。厚さの制限がないために厚い断熱材を敷くことが可能です。

 

どの部位においても構造材の厚さ分の空間を利用していますので空間の有効活用ができます。逆に言うと天井断熱を除けば構造体の厚さ分以上の断熱材を入れることは不可能か、難しい技術となります。

また構造体である木材は断熱材に比べ断熱性能の低い素材ですので、構造体部分の断熱性が低くなってしまいます。その不足する分を充填された断熱材を厚くし補う必要があります。

平成11年基準の断熱性能であれば通常の断熱材でも充填断熱で達成出来ましたが、最新のZEH(ゼッチ)という未来の有るべき住宅の基準では、壁の厚さ分だけの断熱材だけでは不十分な性能であるため、壁の外側にも断熱材を張る付加断熱という手法が取られます。

外張り断熱とは

柱や梁といった構造体の外側に断熱材を貼る方法です。「断熱材ですっぽりと包む」という表現がよく用いられます。壁や屋根や基礎面に外側から板状の断熱材を貼る事で完成します。

断熱性能を高める:壁の外張り断熱

壁の外張り断熱

断熱性能を高める:壁の外張り断熱

壁を外張り断熱にする際は、柱などの構造体の外側に断熱材を張ります。しかし、外壁材の取付等を考えると無限に厚く張れる訳ではありません。ZEH住宅では充填断熱との併用を行う付加断熱とする必要が出てくる場合が有ります。

屋根の外張り断熱

屋根を外張り断熱にする際は、屋根面を作る為の野地という板の上に断熱材を敷き、その上にまた野地板を敷いてから屋根材を葺きます。

基礎断熱

外張り断熱において、部屋の足元の断熱は床ではなく基礎の立ち上がり部分に断熱材を貼る基礎断熱が一般的です。基礎断熱には基礎の外側に断熱材を貼る基礎外断熱と、基礎の内側に断熱材を貼る基礎内断熱が有ります。

断熱性能を高める:基礎断熱

基礎内断熱の例1

断熱性能を高める:基礎断熱

基礎内断熱の例2

基礎外断熱は外壁の外張り断熱と同様の効果が有る上施工が簡単で施工ムラが生じにくい利点が有りますが、断熱材と基礎の間から白蟻が侵入した事故が多発した事で、北海道以外では避けられる事が多い工法です。

断熱性能を高める:基礎外断熱

基礎外断熱の例1

断熱性能を高める:基礎外断熱

基礎外断熱の例2

充填断熱と外張り断熱 メリットとデメリット

充填断熱と外張り断熱、どちらを選ぶべきなのか多くの人が迷うことでしょう。それぞれ双方に長所や短所があり、インターネット上ではそれぞれのファンの人が論争を戦わせていますが、正しく施工さえしていればどちらの工法であっても充分な断熱性能は確保することは出来ます。

充填断熱のメリットデメリット

充填断熱のメリットは何と言っても空間の有効利用です。断熱の為に部屋の面積が小さくなる事はありません。屋根の断熱も通常使用していない屋根裏空間を活用しています。
構造体など様々な部材の間に断熱材を充填するので、施工にあたって余分な部材もほぼ不要となり、安価に断熱性能を確保できます。

一方デメリットですが、住宅の壁の中には筋交という斜めの部材や、配線や配管、それを支える部材等が有り、空隙の形は様々です。そのため、大小様々な形の空隙に断熱材を隙間なく入れていくという手間と技術が必要になります。不十分な施工を行えば隙間が生まれ、断熱欠損という断熱性能が無い部分ができてしまいます。断熱欠損が起きた部分は結露が発生しやすくなり、家を傷める原因になることもあります。

充填断熱の難所

断熱性能を高める:筋交い部分写真

筋かい部分

断熱性能を高める:配線部

配線部分

断熱性能を高める:悪い施工事例(隙間)

細かい空隙部分(写真は荒い施工例)

外張り断熱のメリットデメリット

外張り断熱のメリットは、外壁や屋根や基礎面に板状の断熱材を貼るというシンプルな方法なので、確実な断熱性能が容易に作り出せるという事です。
建物のほとんどの部位においては板状の断熱材を隙間なくべたべたと貼るだけで、細工の必要な個所はわずかとなるため断熱欠損などの不具合が発生しにくいという事がとりえです。
但し、バルコニーや下屋や大型のひさし等、外部に凸凹の多い建物ではそのメリットが失われる事が有りますので注意が必要です。

一方デメリットですが、建物の外側に5~10cmの断熱材を貼ることになるため建物自体がひとまわり大きくなることです。例えば狭い敷地に目いっぱいの建物を建てようとしても、内部空間が狭くなってしまいます。
また、柔らかい断熱材の外側に重い外壁材を付ける為に受け桟が必要になったり、窓や断熱材自体を支える桟が必要になったりと断熱材以外の部材も必要になるため、充填断熱より費用が掛ります。

外張り断熱の取り付け例

断熱性能を高める:難所であるひさし部分

難所であるひさし部分

断熱性能を高める:断熱材を支える桟

断熱材を支える桟

断熱材の種類

繊維系断熱材

断熱材にはさまざまな種類があります。大きく分けると、布団の綿のような「繊維系断熱材」と、樹脂を発泡させた「発泡系断熱材」の2種類があり、その中でも更に材質によっていくつかの種類に分かれます。
それぞれの特徴と、その断熱材がよく使用される工法について見ていきましょう。

断熱性能を高める:グラスウール

グラスウール

原料は空き瓶等のガラスで、綿飴作りの原理でガラスを繊維状にし、それを綿のように加工します。多くは袋に詰められ布団のような形状で使用されます。
古くから冷蔵庫や配管の断熱材として使われ価格も安いです。住宅にも最も早くから使用されてきた断熱材で、現在でもグラスウールの断熱材を使用する住宅が最も多いです。
複雑な隙間に容易に押し込む事ができることから、充填断熱時に使用されています。
主に使われる個所は充填断熱の時の壁の中や、天井断熱時の天井裏です。袋入りではなく板状に成形された物は床の充填断熱にもよく使用されます。

断熱性能を高める:ロックウール

ロックウール

原料は天然岩石で製法はグラスウールとほぼ同じです。グラスウールに比べ耐熱耐火性や撥水性が高いと言われています。
グラスウール同様に複雑な隙間に容易に押し込む事ができることから、充填断熱時に使用されていますが、製造メーカーが少ないことからかグラスウールに比べ少数派です。
主に使われる個所は充填断熱の時の壁の中や、天井断熱時の天井裏です。
グラスウールより耐熱性能が高いので壁貫通のレンジフードダクト周り等火器の近くに使われます。

断熱性能を高める:ファイバー

ファイバー

ファイバー系断熱材には羊毛を使用した物や植物繊維を使用した物や新聞紙を粉砕し繊維化した物等様々有ります。同じ繊維系でもグラスウールやロックウールと異なる所は、袋に入っておらず細かくちぎられた綿のような形状で使用される事が多い事です。不定形ですのでどんな隙間にも入れる事が可能です。
主に使われる個所は充填断熱の時の壁断熱材です。壁に使用する場合は壁の表面に樹脂フィルムを貼り、上部に穴をあけ掃除機の逆の原理で繊維を壁の厚さの中に吹き込んでいきます。
他に良く使う箇所として天井断熱があります。天井裏に雪を積もらせるように、天井裏全体に繊維を吹き込んでいきます。一般的にブローイングと呼ばれ一つ一つの断熱材が細かいので充填性に優れています。また、吹き込み量を増やす事で性能を上げられるので、北海道の住宅の天井断熱でよく使われます。

発泡系断熱材

断熱性能を高める:ウレタンフォーム系(ボード状)断熱材。

写真はウレタンフォーム系(ボード状)断熱材。

ビーズ発泡ポリスチレンフォーム

梱包材等でよく見る白い粒が固まってできたいわゆる「発泡スチロール」です。ポリスチレン樹脂に発泡剤を入れ水蒸気発泡させた断熱材で、あらかじめビーズ状に加工された原料を型にはめ発泡させる事で様々な形態を作り出す事が可能です。
断熱性能は他のフォーム系断熱材より落ちますが安価で有る事で普及しています。
充填断熱時や外張り断熱時の壁断熱材の他、充填断熱時の床断熱材としても使用されます。

押し出しポリスチレンフォーム

同じくポリスチレン樹脂に発泡剤を入れ発泡させた断熱材です。ビーズ状に加工せず直接ボード状に成形する方式で作られています。
ビーズ発泡ポリスチレンフォームと同じポリスチレンですが、ビーズ発泡より断熱性能が高いです。
充填断熱時や外張り断熱時の壁断熱材の他、屋根の充填断熱や外張り断熱に使用されています。基礎断熱時にも非常によく使用されており、白蟻に対して効果のある薬剤を混合したタイプも有ります。

ウレタンフォーム

ウレタンフォーム系断熱材には2つのタイプが有ります。
一つは上記のスチレンフォームなどと同様に発泡剤を入れ工場でボード状に成型してきた断熱材です。ポリスチレン系樹脂断熱材より断熱性能が高いのが特徴です。
充填断熱時や外張り断熱時の壁断熱材の他、屋根の充填断熱や外張り断熱に使用されています。
もう一つは現場に液体状のウレタン樹脂を持ち込み、断熱材を施工したい箇所に専用のガンで発泡させながら吹き付けていくタイプです。
ウレタン樹脂は非常に接着性に優れた樹脂なので、壁や屋根裏面や基礎面や床下面等に吹き付ける事でしっかり張り付いた断熱層が形成されます。
気密性能も併せ持つので、断熱工事と気密工事が一度に出来非常に効率的です。近年このタイプの断熱材を使用する会社が増えてきています。

フェノールフォーム

フェノール樹脂に発泡剤を入れ工場でボード状に成型してきた断熱材です。
他の樹脂に比べると断熱性能が最も高いのが特徴です。同じ厚さでもワンランク上の断熱性能になることから、高断熱住宅で使用される事が多いです。
また防火性に優れ耐熱温度も130度と高く、煙や有毒ガスの発生もほとんどないのが特徴です。
やはりボード状ですので、充填断熱時や外張り断熱時の壁断熱材の他、屋根の充填断熱や外張り断熱に使用されています。

断熱工法と断熱材の組み合わせ

2つの断熱方式と、様々な断熱材の素材等を考えると多くの選択肢が有るように見えますが、現実の所は下記5つの方式のいずれかの選択肢となります。

断熱性能を高める:屋根
断熱性能を高める:袋入り繊維系断熱材を柱間や根太間や垂木間に充填(隙間に押し込む感じ)していく方法。(充填断熱)

①袋入り繊維系断熱材を柱間や根太間や垂木間に充填(隙間に押し込む感じ)していく方法。(充填断熱)

断熱性能を高める:セルロースファイバーやウール等を掃除機の逆の原理の機械で壁の厚みの中に吹き込んでいく方法(ブローイング)

②繊維系断熱材のうち、主にセルロースファイバーやウール等を掃除機の逆の原理の機械で壁の厚みの中に吹き込んでいく方法(ブローイング)。(充填断熱)

断熱性能を高める:板状の発泡系断熱材を柱間や根太間や垂木間の形に合せ切り、その空間に嵌め込んでいく方法。(充填断熱)

③板状の発泡系断熱材を柱間や根太間や垂木間の形に合せ切り、その空間に嵌め込んでいく方法。(充填断熱)

断熱性能を高める:板状の発泡系断熱材を建物の外壁の外側や屋根面に貼っていく方法。(外張り断熱)

④板状の発泡系断熱材を建物の外壁の外側や屋根面に貼っていく方法。(外張り断熱)

断熱性能を高める:発泡系断熱材を液体で現場に持ち込み、現場で発泡させ壁や床や天井に断熱層を作り出していく方法。(充填断熱)

⑤発泡系断熱材を液体で現場に持ち込み、現場で発泡させ壁や床や天井に断熱層を作り出していく方法。(充填断熱)

一方、充填断熱だからと言って壁、屋根、床、全ての箇所を充填にする必要は有りませんし、その逆ですべてを外張り断熱にする必要もありません。

壁は外張り断熱、床は充填断熱、天井は垂木間の充填断熱といった組合せでもかまいません。一番重要なことは、断熱が途切れた箇所がないようにする事です。

 

住宅会社各社はそれぞれ断熱に関して方針を持っており、顧客の希望で断熱方式を変えるという事は行いません。せいぜい1つか2つの方式に絞っています。

断熱方式や断熱材素材は住まいを作る上での末端の選択肢ではなく、会社選びする事がイコール断熱素材や断熱方式を選ぶ事であると考えて頂いて良いでしょう。

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