風水害から住宅を守るために知っておきたい基礎知識シリーズ
風水害の種類と住宅へ及ぼす影響【基礎知識1】
知っているようで知らない風水害の種類と住宅へ及ぼす影響について説明します。
生活の身近になっている風水害
ここ数年、毎年のように大型台風による強風や大雨による洪水被害が発生して、風水害の恐ろしさを肌で感じる機会が多くなってきているのではないでしょうか。
特に2018年、関西を襲った台風21号や2019年に千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号は
記憶に新しいところで、今までにない強風による被害の恐ろしさを現実のものとして見せつけられることになりました。
2018年台風19号 被害の写真 強風で飛ばされた金属片が電柱に引っかかっている。
また大雨の恐ろしさをまざまざと感じることとなったのは2017年の九州北部豪雨や2018年の西日本豪雨、
そして2019年の台風19号です。広範囲に及ぶ河川の氾濫による水害が報告されました。
2018年 西日本豪雨 広島県江田島市 土砂崩れの様子
日本は地震大国と言われており、地震の恐ろしさについては感じることが多くありますが、
台風や豪雨の恐ろしさについては多くは語られてきませんでした。
しかし、昨今の風水害を経験しその恐ろしさをすることとなりました。
地球温暖化による気候変動により、今後このような風水害が毎年どこかで起こる時代になってきています。
そのような中、住宅はどうでしょうか?
ほとんどの住宅会社は、風水害といえば、台風による強風に対する構造の強さを中心に自社の建物の優位性について語ってきたように見受けられます。
住宅の多くは平地に建てられます。
山が多く平地が少ない日本では人が住む都市の多くは海抜が低い所にあり、平地は主に河川によって作られてきたので河川が身近にあります。
想定外の雨量が日常化する中、みなさんが住む住宅地の殆どは水害の危険性にさらされていると思ってよいのではないでしょうか。
今までの様に風水害を台風による強風被害だけに限定するのではなく、大雨による豪雨被害や洪水に備えた家づくりまで範囲を広げて対策する必要が出てきたのではないでしょうか?
今回はその対策をするためにも必要な、風水害の種類と住宅に及ぼす影響についてご説明します。
風水害の種類と住宅に及ぼす影響
風水害とは簡単に言うと、読んで字のごとく風と雨による被害です。
しかし、実際のところ風水害は風と雨による直接被害だけでなく、「強い風と強い雨により引き起こされる様々な災害の総称」として使われています。
代表的なものとして、
●強い風による建物倒壊や人への被害
●大雨がもたらす洪水
●気圧の低下と強風が重なる事で起こる高潮
●土石流による破壊と人命の危機
●大雨が長く続き地中の水分が限界に達した事で起こる地滑りやがけ崩れ
●東日本大震災で見られた恐ろしい津波被害
などが挙げられます。
それぞれの災害の内容と住宅に及ぼす被害について説明していきます。
●強い風による強風被害
強風被害として代表的な例に挙げられるのが、爆弾低気圧や台風です。
その多くは強い雨を伴った強い風が吹きます。なかには被害とまでは言えませんが、春一番やからっ風、木枯らし等の雨を伴わない強風もあります。
まず、強い風が吹く事で風の力で押す力が発生します。そして、反対の面では負圧という引き剥がす力も発生します。
住宅に及ぼす強風の被害としては、まず初めにこれらの力が複雑に絡み合い瓦やカラーベストなどの屋根材が引き剥がされる被害です。
屋根材をはがされた住宅の防水性能は格段に落ちてしまい甚大な雨漏れ被害を起こします。中には屋根材の下には防水のためのシートがあり、
シートが健全であれば雨漏れが防げる場合があります。しかし屋根材が引き剥がされた場合、雨漏れ被害が起こる確率は非常に高いでしょう。
次に起こることは、風による大きな力が軒の裏に当たり、屋根全体を吹き飛ばしてしまうことや、強風の力で飛来したものが窓ガラスを割って強風が室内に吹き込み、屋根を内側から吹き飛ばしてしまう現象です。
屋根全体を飛ばされてしまったら、住宅は蓋の無い箱のような状態となります。
このようになってしまうと、雨や風を防御する力を完全に失ってしまい、家の中は水浸しとなり多くの家財も飛ばされてしまいます。
2019年に千葉県を襲った台風15号では多くの住宅がこのような被害にあっていました。
そして強風の最終的な被害は、建物自体の倒壊です。
例えば強い風が吹いている時、傘をささない状態であれば歩く事が出来ても、傘をさした途端に強い力を受けて踏ん張らないと歩くことが出来なくなることはありませんか?
1㎡程度の傘で計算してみますと風速20mの時で約30kg近くの力が掛かっています。
一般的に住宅の外壁面積は50㎡ぐらいありますから、その50倍の1500kg強にもなります。
大きな力が掛ると横からの力に弱い住宅(耐震性能が低いとも言える)では住宅全体が平行四辺形になり地震同様に倒壊する可能性があります。
家が平行四辺形となり倒壊するステップについては「地震に強い家」で述べているので、そちらも参考にしてみてください。
今後台風が巨大化していく時代に入り、強風による住宅の倒壊や破損への対策を考える必要があります。
●大雨がもたらす洪水
洪水には2つのタイプがあります。
●河川が溢れたり、堤防が決壊することで住宅地に水が押し寄せてくる「外水氾濫」
押し寄せてくる水は泥水。
●下水が雨水を処理する限界を超えて道路に溢れ出す「内水氾濫」別名で都市型氾濫ともいわれる。
溢れ出す水は下水。
外水氾濫での河川の決壊地点では、あふれ返る川からの水の勢いで津波と同等の水圧が発生して家を破壊してしまいますが、決壊地域以外の外水氾濫や内水氾濫では家を壊すほどの水の勢いはありません。
しかし、家を破壊するほどの勢いがなくても、浸水被害を受けた住宅は生活を再開することが容易でないほどの甚大な被害を受けます。その原因は汚れた水の存在です。
内水氾濫では汚水、外水氾濫では泥水が住宅地を襲います。それらは家の隅々にまで入り込んで住宅に必要な機能を奪うと共に、不快な臭気を発して生活環境を汚染していきます。
大量の泥や汚物を排出し清掃しなければ生活の復旧は不可能です。復旧には多大な労力と費用を要します。
また、復旧の労力は床下浸水か床上浸水かでも大きな差があります。
一般的に木造住宅の基礎の高さは地面から45cm程度の高さです。床下浸水をすると、多くの家で基礎内に汚水や泥水が入り込むことになります。
基礎の高さ以内で浸水が納まるようであれば、水と泥の除去、その後の消毒や乾燥も比較的容易です。
しばらくの間残った匂いや湿気に悩まされるかもしれませんが、大規模な復旧工事が必要ということはありません。
しかし、基礎の高さを超えて床の厚さ以上の床上浸水となると、事は重大さを増します。
住宅の壁や床の厚さの中には多くの空隙があると共に、床や壁は水に浸かれば使えなくなってしまう素材で構成されています。
ましてそこに入り込んでくるものが汚水や泥水ですから、撤去や清掃、消毒その後の復旧作業に多大な労力がかかります。
例えば床の厚さの中には断熱材が入っています。グラスウールが多く使われます。
その素材は綿のようなもので、水がしみこむと断熱性能が無くなるうえ、いつまでも汚れや臭いが残り継続して、使用することは不可能です。
床の下地となる合板も長い間水に浸かっていると膨らんだり、汚水が染み込んだりして強度が落ち使えなくなる可能性が高いと考えられます。
壁の厚さの中にも断熱材が入っていて床と同様の被害を被ります。また壁の下地は耐火性を確保するために石膏ボードが使用されていますが、水がしみこむとぼろぼろに崩れて使用できなくなります。
復旧作業は床や壁の仕上げを剥がし中の下地も撤去し、断熱材を捨て骨組みだけにします。そして高圧水で洗浄ののち石灰などを撒き消毒しなければなりません。
しばらく乾燥させるために放置したのちに再度同じ素材を使い復旧します。その間そこで生活することができなくなるので2階で生活したり別の場所に仮住まいして生活する必要があります。
泥まみれや汚水まみれになった家をきれいに洗ったり汚れたものを撤去することは非常に重労働で、精神的にも肉体的にも住む人の負担は相当なものになります。
また保険金が確定するまで復旧工事に着手出来ません。泥や汚物の除去の応急作業を行った後、保険金確定までしばらく待つ事になり、特にこの間は精神的に辛いものとなります。
●気圧の低下と強風が重なる事で起こる高潮
高潮は上昇した海水が津波のように人の住む地域に流れ込む現象です。
のメカニズムは台風の本体である低気圧により海水面が持ち上がり、強風により吹き寄せられ、常以上の高さとなり防波堤を越え住宅地に押し寄せる現象です。
その可能性のある地域は海水面より低い海抜ゼロメートルを初めとする標高の低い海沿いの地域です。
その直撃を受けた場合の破壊力は津波に匹敵し、家の流出や倒壊等がおきます。それ以下の規模であっても洪水と同様の浸水被害を与えます。
高潮を防ぐには防潮堤を高くするしかなく、住宅自体の性能でそれを防ぐことはほぼ不可能です。
被害後の復旧は洪水被害と同様の事を行わなければなりません。違いは襲ってくるのが海水なので、電気設備に
大きな被害を与えます。海水は家や車や設備品に対し非常に厄介です。
海水が付くことで、その後様々な建材に腐食が進んでいきます。
沿岸の地域では台風通過後塩水を被った家を洗う「家洗い」の作業を行う地域もあるくらいです。
●土石流
土石流は非常に恐ろしい災害です。山腹、川底の石や土砂が長雨や集中豪雨などによって、一気に下流へと押し流される現象です。 土石流の速さは時速20~40kmにも達します。
土石流の多くは急傾斜の川沿いや扇状地の地形で発生します。原因は大雨によるものが多数を占めますが、大雨以外でも起きる可能性があります。
雪国では雪解けの水が原因となることもあります。また地震により、発生した土砂ダムの決壊で起こることもあります。
多くの岩石や樹木が含まれるため、破壊力は猛烈で一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させてしまいます。
2014年に起こった広島県での土砂災害では鉄筋コンクリート造の公営住宅が土石流の直撃を受けました。鉄筋コンクリートであってもかろうじて躯体の形を残ったという大きな破壊力でした。
破壊された住宅は建て直すしか、もとに戻す方法はありません。
●大雨が長く続き地中の水分が限界に達した事で起こる地滑りやがけ崩れ
地滑りやがけ崩れは今まで形状を安定させていた地盤が崩壊したり、滑り崩れ出す現象で、地震による振動や大雨による地盤の緩みが主な原因となります。
規模に大小があって地面の一部が崩壊するものもあれば、街や山全体が崩壊するパターンもあります。
地震や大雨はそれ自体で住宅やその中で暮らしを脅かす災害ですが、その影響を受けた地盤が崩壊する事でさらに大きな災害を発生させます。
崩壊した地盤の上に住んでいた人々だけでなく、その下に住んでいる人々の命をも脅かします。
崩壊した地盤の上に住んでいた人は土砂と共に家ごと流されたり、崩落し大変危機的な状況となります。
その下に住んでいる人は崩れ落ちてきた土砂や家の下敷きとなり生き埋めになる危険性があります。
共に命の危険を脅かす重大な事態となりますが、幸運にも命が助かったとしても家を失っただけでなく、住む場所さえ無くなってしまいます。
発生箇所は自然の山の斜面や傾斜地ばかりではなく、人工的に作られた地盤でも数多く発生しています。
自然の山を削って作られたので地盤は一般的に安定しており安全な地盤であると言われています。
ところで、切土や盛土という言葉をご存じでしょうか?
切土はもともとあった山を削り、平らにした箇所のことです。
それに対し盛土はもともと谷や低地だったところや、海や池だったところを人間が土を盛って作り出した地盤です。
近年、この盛土住宅地が大きな危険性をはらんでいるということで問題となり新聞記事を賑わせています。
また、大規模な盛土の住宅地でなくても、山の斜面に家を建てる場合、斜面を削り切土を作り斜面にコンクリートの擁壁という壁を建てて、土を入れ盛土地盤を作り、切土と盛土の双方の地盤で宅地を作ることはよくあることです。盛り土に関しては「地震に強い家」でも述べておりますのでそちらの記事も参考にしてください。
●東日本大震災で見られた恐ろしい津波被害
津波は海底で発生した地震が海底を隆起や沈降させる事で起こる波が地上を襲う現象で、その恐ろしさを東日本大震災で目の当たりにした方も多いのではないでしょうか。
津波は多くの街を襲い、家や暮らしを破壊しつくして多くの犠牲者を出しました。
あの猛烈なパワーに対して打ち勝つ技術は現代の住宅にはありません。
今後もあの津波に打ち勝つような住宅が開発される事はないと考えられます。
検討が出来るとすれば、住む地域でしょうか。
津波被害の多くは海岸縁の標高の低いや河川沿いの地域で起こります。特に湾の奥等幅が狭まる所ではその波高はさらに高くなります。こちらについても当サイトの「地震から身を守るために~土地編~」で説明しておりますのでご参考になさってください。